
2003年のことでした。私たち家族は、高知県の四万十川流域に移り住みました。きっかけは、子どもの病状でした。空気のきれいな場所で、もっと自然に近い暮らしをしてみよう。そんな思いから、思い切ってこの地への移住を決めました。
初めて四万十川を目にしたとき、その美しさに息をのみました。私自身、生まれは田舎で自然には親しんで育ちましたが、それでもここは格別でした。広くゆったりと流れる水、川底まで透き通る清流、季節の移ろいを映す川面のきらめき。見慣れていたはずの風景よりも、ずっと深く、静かで、手つかずの自然がここにはありました。
まるで時の流れまでがゆっくりになったようで、「この川のそばで暮らしてみたい」と思ったのを、今でもよく覚えています。
暮らし始めてからも、自然の中での生活は決して簡単なものではありませんでしたが、心が少しずつ軽くなっていくのを感じていました。田んぼの水音、鳥の声、夜の虫の音。ここには、静かだけれど確かに「生きている」時間が流れています。そして何より、子どもの表情が穏やかになっていくのを見て、「来てよかった」と心から思えたのです。
・鮎釣りとの出会い
そんな私が鮎釣りに出会ったのは、移住して十数年が経った頃。地元での仕事を通じて知り合った一人の漁師さんがきっかけでした。年齢は2つくらいしか変わらないのですが、子どものころから鮎釣りをしてきたベテランの漁師さんです。
ある日、その漁師さんがぽつりと「今度一緒に行ってみる?」と声をかけてくれました。聞けば、鮎釣りの技術はすでに体に染みついていて、私が始めたばかりの頃とは比べ物にならないほど、川のことを知り尽くしていました。
多くは語らず、基本的なことだけを教えてくれて、あとはその背中で手本を見せてくれました。竿の振り方、囮鮎の扱い方、流れの読み方、すべてが自然と身についていくような、そんな時間でした。
それからというもの、夏が来るたびに四万十川に通うようになりました。鮎釣りは簡単なようで奥が深く、毎年少しずつコツを覚えながら、自分なりの楽しみ方を見つけています。釣れた日はもちろん嬉しいですが、釣れない日も、川の音を聞きながら過ごす時間が何よりの癒しです。
釣りを終えて家に帰ると、妻と子どもが「今日は釣れた?」と笑顔で迎えてくれます。釣りたての鮎をキッチンで焼くと、香ばしい香りが家中に広がって、みんなが自然と台所に集まってきます。骨ごと食べられるほど柔らかく、脂ののった鮎は、川の恵みそのもの。家族と一緒に分け合うひと皿が、何よりのごちそうです。

四万十川は、私たち家族にとってただの川ではありません。暮らしの一部であり、心の拠りどころであり、大切な時間を育ててくれる存在です。四季折々に表情を変えるこの川と、そこで出会った人々、そして鮎たちとの時間を、これから少しずつこのブログに綴っていこうと思います。
もし読んでくださった方の心にも、川の音や夏の風がそっと届いたなら、こんなに嬉しいことはありません。
そして、今年の四万十川中流域の友釣りの解禁は、5月15日です。いよいよ鮎釣りの季節が本格的に始まります。みなさんもぜひ、この素晴らしい川での釣りを楽しんでみてください!